大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和33年(む)934号 判決

被疑者 小野明 外一〇名

決  定

(被疑者氏名略)

右の者等に対する各地方公務員法違反被疑事件について昭和三十三年八月二十四日福岡地方裁判所裁判官倉増三雄がなした勾留請求却下の裁判に対しいずれも福岡地方検察庁検事正代理検事川口光太郎より準抗告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

被疑者等に対する検察官の勾留請求について、昭和三十三年八月二十四日、福岡地方裁判所裁判官倉増三雄がなした右請求却下の裁判はいずれもこれを取消す。

理由

本件申立の趣旨は「被疑者は罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるのみならず、刑事訴訟法第六十条第一項第二号に該当することが顕著であるのにこれらの理由なしとして勾留請求を却下したことは著しく判断を誤つたものであるから、右決定を取消し勾留状の発布をされ度く請求する」というにあり右申立理由の要旨は、

その(1)として、被疑者等福岡県教職員組合中央斗争委員(以下単に中斗委と称する)は昭和三十三年五月九日緊急執行部会において本件五月七日の一齊休暇に関する一切の関係書類を焼却すること並びに同日の年次有給休暇届を提出する際の状況については黙秘する旨を決定し、所属支部長分会長を通じて傘下組合員に対し右一齊休暇関係書類を焼却せしめ、更に同年六月十九日の福教組支部長会議の際、各支部長を通じて「不当弾圧時の心得」と題する文書を配付して手帳等関係書類一切の廃毀処分方周知徹底せしめてこれが罪証隠滅方指示したというにあり。

その(2)は本件事犯はその特殊性から人証として福教組傘下九百三十分会について少くとも各分会長並びに分会員各一名を取調べなければその全貌を把握できないこと必至であるにも拘わらず、現段階では警察で調べた分会長百四十八名(うち検察庁三十名)分会員三百八十七名(うち検察庁二十名)に過ぎず、残合計千三百五十二名が取調未了の状態にあるところ被疑者等中斗委員は右関係者に出頭並びに供述拒否を指令し、唆かしておりこの事実に徴すれば現段階において被疑者等を釈放するにおいては被疑者等は今後もなお罪証の隠滅を図ること明らかであり、のみならず各被疑者自身についても本件一齊休暇の指令を内容とする柳川大会第三号議案の立案、成立過程、指令第一号伝達の経緯についてその出頭供述を全面的に拒否し、これについての取調べは全く進捗せずそのすべてが今後の捜査をまたなければならないところ、彼等の抗争的態度に徴すればこれまたその釈放後は相互に相通じて罪証隠滅を図ること明らかであるというにある。

よつて検討するのに、本件各資料によれば本件各被疑事実については一応の疏明があるものと認められる。また申立理由(1)に記載したような関係書類の焼却隠匿関係人に対する捜査当局の呼出に対する出頭拒否、取調べに対する供述拒否等が行われたことは明白である。(出頭を拒否した者に対して組合より慰労金を支給する旨決定されたことすら窺われる)これらの事実と被疑者等との間に、いかなる関係の存するかは明白に断定することはできないが、本件組合の組織機構統制力その他本件資料により認められる諸汎の事情を綜合考察すれば被疑者等の発案や働きかけが与かつて影響したであろうことが十分に窺われる。一方本件の捜査として今後果して検察官の主張するが如き広範囲の取調を要するか否かは、にわかに断定しえないが本件資料を検討してみると物的、人的証拠の各面において、なお相当の取調を要すると思料される。してみると被疑者等の本件組合における地位や影響力その他諸汎の事情に鑑みれば今直に被疑者等を釈放するときは罪証隠滅の虞ありと解するのが至当である。

よつて刑事訴訟法第六十条第一項第二号に従い右被疑者等をいずれも勾留すべきであるから、本件申立は理由があるとしてこれを認容すべく罪証隠滅の虞なしとして右被疑者等に対する勾留請求を却下した原裁判は失当として同法第四百三十二条第四百二十六条第二項に従いこれを取消すこととし主文のとおり決定する。

(裁判官 塚本富士夫 山口定男 牧山市治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例